【脱・シャツ】

シャツを着る理由をアップデートする「Shirt 2.0」という考え方

山神正則山神正則
脱・シャツ Shirt 2.0

近年、「脱スーツ」「脱ネクタイ」「脱出社」など、“脱○○”という言葉をよく見かけるようになりました。

今回のテーマである「脱・シャツ」は、シャツを着ることをやめようという話ではありません。これまでのシャツに対する考え方を少しだけアップデートしてみませんか。 そんな提案です。

私はオーダーシャツ職人として十数年、数千人以上のお客様と接してきました。 その中で感じるのは、現代のビジネスシーンにおいてドレスシャツが以前ほど必要とされなくなったという事実です。

職場のカジュアル化が進み、ジャケットを着ない人も増えました。 シャツを着るとしても、「会社のルールだから」「取引先に会うから」といった理由が多くなっています。 リクルートスーツもいい例ですね。
好きだから着るというより、着させられている感覚に近い人も少なくありません。 そしてシャツそのものも、いつの間にか”消耗品”として扱われるようになりました。 「シワになりにくい」、「洗濯が楽」、「すぐ乾く」、「価格が安い」。 もちろんそれらは大切な価値です。

綿ポリエステル素材やポリエステル100%素材、形状記憶加工などの技術進化は素晴らしく、多くの人の生活を便利にしてきました。 一方で、「肌触りが良い」「生地の風合いが好き」といった感覚的な価値へのこだわりは以前より薄くなっているようにも感じます。 極端な話、楽であれば気にしない。それも現代の価値観のひとつです。

私は、それが悪いことだとは思っていません。 むしろ自然な流れだと思っています。
だからこそ、シャツの価値をもう一度考える必要があるのではないでしょうか。 シャツ業界には高級生地や高級仕様が数多く存在します。

「超長綿」、「舶来生地」、「300番手双糸」、「手縫い」、「細かい運針」。 どれも素晴らしい技術です。
ですが正直に言えば、それらの違いを理解できる人は決して多くありません。 細かい運針も手縫いも、生産側から見れば大きな付加価値です。 しかしシャツを着る人の大半にとっては、それほど重要なことではない場合もあります。 なぜなら、お客様が本当に欲しいものはスペックそのものではないからです。

例えば、

  • 「そのシャツ素敵ですね」
  • 「似合っていますね」
  • 「清潔感がありますね」

そんな一言のほうが、何倍も嬉しい。私はそう感じています。

シャツは工業製品である前に、人が着るものです。 評価されるのは生地の番手でも運針数でもなく、最終的には着ている本人です。 だからシャツ選びも、もう少しシンプルでいいと思うのです。

  • 季節に合った色を選ぶ。
  • 季節に合った素材感を選ぶ。

それだけでも十分お洒落に見えます。

  • 春なら軽やかな綿素材のサックスブルー。
  • 夏なら雨上がりの空の水色や夕焼けのような茜色。
  • 秋なら温かみのある生成りやブラウン。
  • 冬なら少し厚みのあるオックスフォード。

難しい知識は必要ありません。 季節感があるだけで、人は自然と好印象を受けます。 逆に、本人は気づいていなくても周囲が違和感を覚えることもあります。 例えば、ステッチの色や黒や紫、オレンジ、水色などのカラーボタン。 もちろん好みは自由ですし、コーポレートカラーを取り入れているのであれば素敵です。 ただ、ビジネスシーンでは「なぜその色なのだろう」と感じる人が意外と多いのも事実です。 シャツは自分のためだけに着るものではなく、相手からどう見えるかも含めて成り立つ服だからです。

私はこれからのシャツに必要なのは、スペック競争ではないと思っています。

  • 誰より高級な生地とか、
  • 誰より細かい運針とか、
  • 誰より手間をかけた仕立てとか、

もちろんそれらには価値があります。 しかし、それだけではシャツを着る理由にはなりません。 これから必要なのは、「着る人の評価を上げるシャツ」という考え方です。

かつてシャツは「きちんと見せるための服」でした。 しかし今は、「白だったら何でもよいのでは」になっているようにも思えます。 これからは「自分らしく見せるための服」へ変わっていくのかもしれません。

堅苦しさではなく、その人らしさや価値観が自然と伝わること。 それもまた、現代のシャツに求められる役割だと思います。

  • 清潔感がある。
  • 誠実に見える。
  • 季節感がある。
  • 相手への配慮が伝わる。

そして少しだけ自信が持てる。 そんな役割を果たすことができれば、シャツはまだまだ必要とされるはずです。 私はこれを勝手に「Shirt 2.0」と呼んでいます。 特別な機能が増えるわけではありません。 高級品になるわけでもありません。

ただ、シャツを着る目的を少しだけアップデートする。 シャツそのものを見るのではなく、シャツを通して自分がどう見えるかを考える。 これまでなかったシャツへの期待。 人との関係を整えるためのシャツ。 それが「脱・シャツ」です。

シャツから離れるのではなく、シャツの本質に近づくための小さなアップデート。 そんな時代が、もう始まっているのかもしれません。

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