【クラシカル再解釈】

「守る」から「活かす」へ。シャツの価値をもう一度考える

山神正則山神正則
クラシカル再解釈

前回、「脱・シャツ」というテーマで、シャツを着る理由をアップデートしてみませんか、というお話をしました。今回はその続きとして、「クラシカル再解釈」というテーマを考えてみたいと思います。

私はシャツ職人という仕事柄、「なぜそう作るのか」「なぜそう着るのか」と聞かれることが少なくありません。 そして最近、私自身も同じ問いを持つようになりました。

「なぜ、こうでなければならないのだろう。」 業界には、理由が語り継がれるうちに、半ば”都市伝説”のようになっているルールもあります。

  • 白シャツが基本で、白であれば品格が良く見える。
  • 高級シャツのボタンは天然貝。
  • 細かいステッチの縫製こそ格式があるから。
  • 昔からそうだから。

もちろん、それらには理由があります。 しかし、その理由を説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。 「過去から」という理由だけで続いているものも少なくありません。それは本当に今の時代にも必要なのでしょうか。 時には、作る側のエゴや業界だけの常識になってしまっているものもあるように感じます。

近年、「持論に固執し、こちらの話に耳を傾けない若い世代が増えた」と耳にすることがあります。 私は少し違う見方をしています。
耳を傾けないのではなく、「納得できる理由」を求めているのではないでしょうか。 “伝える”と“伝わる”では大きく違ってきます。理由が伝われば、人は意外と素直に受け入れます。 逆に、「そういうものだから」や「こうでなければならない」という説明では納得しなくなっただけなのだと思います。 そもそも、多くの人はシャツが好きだから着ているわけではありません。 「仕事だから」、「会議だから」、「営業だから」、「冠婚葬祭だから」と、“〇〇だから着る”という、謎のルールから始まっています。 「着たいから着る」ではなく、「着なければならないから着る」。 だからこそ、その一着には”着る意味”が必要なのだと思います。
作る側が伝えたい価値も大切ですが、着る人が感じる価値の方がはるかに重要です。 私は最近、製作者よりも消費者の方が「着る」という実用性をよく理解しているのではないかと思うようになりました。

  • 一日着て疲れないこと。
  • 周囲から好印象を持たれること。
  • 洗いやすいこと。
  • 自分らしくいられること。
  • 長く着られること。

それらは、実際に毎日着ている人だからこそ分かる価値です。 私はハイスペックが価値なのではなく、安心して選べること、安心して着られることこそ価値 なのではないかと思うようになりました。
作る側は、そこにもっと耳を傾けてもいいのではないでしょうか。

「クラシック」という言葉があります。 音楽でいうクラシックも、作られた当時は最先端でした。 モーツァルトもベートーヴェンも、古典を作ろうとしていたわけではありません。 その時代の新しい表現に挑戦していた結果、後にクラシックと呼ばれるようになったのです。 シャツも同じではないでしょうか。
今あるクラシックは、かつて誰かが挑戦した最先端だった。 だから本当に守るべきものは、形ではなく「挑戦する姿勢」なのかもしれません。
私は、お客様に色・柄のシャツを提案することがあります。 最初は「着こなせるかな」と不安そうな表情をされる方も少なくありません。 しかし実際に着てみると、「その色、似合いますね」と声を掛けられることが多いそうです。 本人は勇気が必要だった一枚でも、周囲は自然に受け入れている。 そんな経験を何度も見てきました。
私たちは、自分が思っている以上に「無難」を選び過ぎているのかもしれません。 ただ、目は引きますが、それだけで価値になる時代ではなくなってきたとも感じています。 シャツは相手と向き合う服でもあるからです。 本当に必要なのは、”Why”という物語です。

  • 白シャツは、着る人の所作まで映し出す。だからこそ自分磨きの色。
  • 天然貝ボタンは、着こむほど表情が変わり、その人だけの一着になっていく。
  • 水色や色シャツは、気分だけでなく、人との距離までやわらかくしてくれる。

そして、その物語の先にあるのは、自分らしさだけではありません。 相手や空間に失礼にならない配慮。 その配慮があるからこそ、シャツは単なる衣服ではなく、その人だけの一着になります。 スペックは比較できます。 でも、物語は比較できません。 だからこそ、それが着る人にとって本当の付加価値になるのだと思います。

クラシックを守ることは大切です。しかし、もっと大切なのは、クラシックを今の時代に合わせて再解釈し続けることではないでしょうか。
受け継ぐために変える。変えるために学ぶ。 クラシックとは、過去を守ることでもルールをなぞることでもありません。 時代が変わっても変わらない本質を見極め、その時代の人間関係と空間に合う形へ翻訳し続けることです。 シャツは過去を着るものではありません。今を生きる人と未来をつなぐ衣服であってほしい。

だから私は、伝統を残すのではなく、伝統を活かし続けたいと思っています。

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